成長のカギは人財育成

公開:2024/1/24

人の成長無くして企業の成長はあり得ない

 多くの業種で人手不足の声が聞こえているが、このような状況が続くことによ
り、従業員の方々の成長の機会が失われてしまうことを危惧している。
 と言うのも、人の成長無くして企業の成長はあり得ないからだ。
 既存事業の拡大および業績(利益・キャッシュフロー)改善、新規事業の設計、
既存の製品群・各種ノウハウを活用したシナジー効果の創出など、企業の成長
シナリオを具体化するのはすべて人の力(知識・知恵)があってこそだ。
 やるべきことがたくさんある経営者の皆さんには、決断が必要となる事項だが、
企業内のどのような課題を差し置いても、人財育成は優先して対処すべき課題だ
と思う。
 人は、自分の知っていること以上の事を他人に教えることはできない。故に、
人を育てる立場にある人は、常に自己研鑽に励まなければならない。
 これを自身の力だけでできる人にはその時間を与え、自身の力だけではできな
い人には階層別教育や各自の職務に必要な専門知識を習得するための教育体系を
整備して、受講結果や得た知識の業務での活用状況を人事評価するような仕組み
を用意するのが、経営者の役割である。
 自己研鑽のための時間確保にも、教育体系の整備にも費用が掛かる。これを
単なるコストで終わらせるか、人的資本に対する投資と言えるものにできるかは、
教育を受ける従業員の技量よりも、経営者の本気度にかかっていると考える。
 新たに得た知識が業績向上につながり、次の世代の人財育成原資となる。こう
した人的資本サイクルが円滑に回っている企業は、常に活気のある事業活動を
遂行できていることだろう。

成功事例に学ぶ。そして課題を参考にする

 事業活動に役立つ知識には、学校で学ぶ学科のような専門知識の他に、事業
活動に直結した事業遂行ノウハウというものがある。
 この知識は、自身もしくは会社が課題に直面しないと積極的に習得しようと
いう意識が生まれにくい。痛い目に会って初めて事の重要性に気づくという
やつだ。
 転ばぬ先の杖ではないが、発生するかしないかは不確実ながら、事前に知識
を習得していても損はない。
 そのような知識をどのようにして習得するか? 実は意外に簡単である。
 これは私自身が実行している作業なのだが、書籍・新聞記事・ネット等に山
ほど転がっている『世の中の成功事例』を活用するのだ。ただし、これらの情
報は自分から取りに行かなければ、向こうからやってくることは稀である。
 「読み物からの情報では、臨場感が無さ過ぎる」と思われる方がいたら、ま
ずは自社と同業の事例を探してみるとよい。課題が生じた背景などが、他業種
の事例と比べてすんなりと頭に入ってくる。これが理解できたら、自社に同じ
ような事象が発生していないか、または発生しそうな危険性が見え隠れしてい
ないかを確認する。
 もし、課題発生の恐れを感じたら、成功事例に記載された解決策を大いに参
考にすればよい。
 同業の成功事例に関する情報に慣れたら、他業種の事例にも目を通してみよ
う。最初に感じた抵抗はもうないはずだ。そして、業種の垣根を超えた、正に
『目から鱗』のような情報を得ることができるだろう。  

時間の作り方

先に、自力で学ぶことができる人には時間を与え、自力で学ぶことができない人
には強制的な学びの機会を与えよ と述べた。人手が足りない中で、どのように
してその時間を作るか、経営者にとっては大きな課題だろう。
 荒療治だが、一つの解決策を紹介しよう。
 どの会社でも、毎月定例的に様々な資料を作成していることと思う。それらの
資料の報告先や作成目的は、しっかりと理解できているだろうか? そして、そ
の資料が確実に活用されていることを確認できているだろうか?
 言葉を変えると、『過去から作成している資料なので惰性で作成しているだけ』
と言えるような資料がないだろうか?
 もし、作成目的や活用状況が不明確な資料があったら、一度作成するのを止め
てみるとよい。そして、提出先から催促がなければ、そのまま止めてしまっても
おそらく何の問題もないはずだ。
 催促があった場合は、活用状況を確認の上で作成の継続・中止を判断するか、
必要な部署が直接情報を取得するように促してみてはどうだろう。
 古い私の経験だが、既存の作成資料の半分程度は、工夫次第で作らなくても
問題が生じなかった。
 ただし、作成している資料の中には、法令や政令、その他公的制度が作成・提
出・保管を義務付けているものもあるだろう。そうした資料は、自動作成できな
いかを検討してみる。
 生産活動・事業遂行に係る情報を収集・集計・保管するだけなら、システムで
定型レポートを作成し、電磁的なデータ保管方法を採用した方が圧倒的に効率的
である。
 その他、良い意味で『如何にして楽をしようか』と考えてみるのもよい。
 経営分析・管理会計用の資料などは、手作業でデータを集めて集計・計算した
方が、傾向を理解しやすいし、異常に気付きやすいというメリットもあるのだが、
こうした作業もコンピュータに任せた方が早くて正確だ。
 製造現場では、日々無駄取り作業を行って生産効率を向上させているが、間接
部門におけるこうした無駄取り活動は、まだまだ突っ込みどころ満載ではないだ
ろうか。

人的資本投資の原資は、どうやって確保する?

 政府は、企業に積極的な賃上げ実施を要請している。中小企業を含めた企業の
賃上インパクト軽減のため、税制優遇措置等も検討されているようだ。
 人財育成に必要な費用は、賃上げと同じ人的資本投資の一部である。
 企業はこの原資をどうやって確保するのか?
 国の補助政策頼みで人的資本投資の各拡充を意思決定する企業なんてあるはず
がない。人的資本投資の増額は、企業の将来に亘り永続的な影響を及ぼすものな
ので、必要な資金は各企業の主たる事業活動から稼ぎ出さなければならない。
 ここで重視すべきは、利益率・利益額の向上よりも、キャッシュ・フローの
最大化である。一定の利益率・利益額が達成できていても、手元資金がないと賃
上も人財育成環境整備も実現できない。これらの施策を借金に頼って実現しよう
とするのは、ゴーイング・コンサーンを放棄することに等しい。
 よって、これまで経営改革テーマとして『財務体質の強化』に積極的に取り組
んで来なかったと思う企業の経営者は、改めて『キャッシュ・フロー経営』につ
いての学びの時間を作ってみてはいかがだろう?

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