当社でもDXを始めたい。でも、どうすれば???

公開:2021/12/13

最近のKeyWord

 DX・IoT・SDGs。最近、毎日のようにニュース・新聞・雑誌で見かける
文字である。
 おそらく、このコラムを読んでくださっている皆さんの会社でも、この3つのテ
ーマに関連する何らかの活動や検討を進められていることと思う。
 ということもあって、DXをテーマとしたコラムを書いてみようと思い、いろい
ろとネタ集めをしてみたが、なかなか筆が進まない。何故だろう?
 コラムやセミナーでのプレゼンを書く時には、柱となるキャッチーなテーマを決
め、それに関わる事実・課題認識・原因分析・改善施策と展開していくことが多
い。
DXというテーマでも同じようなアプローチを取ってみようと思ったが、テーマが
広過ぎて絞り込みが難しい。その証拠に新聞紙上に出ているDX関連の見出しや取
り組み例を挙げてみると、『離党・僻地を救うデジタル医療』『ビッグデータを企
業運営に活かすデータ経営』と言った最新のテクノロジーや高度なデータ分析ノウ
ハウを必要とする取り組みもあれば、『ノートパソコン・遠隔会議システムの導
入』『文書の電子化によるペーパーレスの伸展』と言ったひと昔前に『OA化』と
呼ばれていた取り組みもある。
 この状況を受けてか、DXを商売のネタとする大小多くの企業が、様々なテーマ
のサービスを紹介・提供している。
 コロナ禍の対応で、改めて政府・諸官庁・地方公共団体のシステムの貧弱さが露
呈し、この状況を打開すべく、2018年に経済産業省が発表した『デジタルトラ
ンスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
を強力に推進することを目的のひとつとしてデジタル庁が発足して以降、民間企業
にもDX推進の波が押し寄せ、前述のように自らの活動をアピールする企業が増え
ている。しかし、まだ何の取り組みも行っていない企業や、企業価値の低下を恐れ
て右往左往している企業も多いことだろう。
 ということで、このような企業の皆さんへのメッセージとして、私自身のDXに
対する考え方を少し述べてみたい。

 

参考 : 経済産業省『DX推進ガイドライン』におけるDXの定義

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、

顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとと

もに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の

優位性を確立すること

どのような活動を行えばよいのか?

 読者の皆さんの会社では、過去に業務効率化を目的としたシステム更改プロジェ
クトを実施したことがあるだろうか? そのプロジェクトが計画通りに進捗せず、
経営者に約束した稼働開始日が近づいたところで、当初の目的がどこかに吹っ飛
んでしまい、とにかく新システムを動かすことだけを考えてプロジェクトを終え
たという経験はないだろうか?
 DXの取り組みは、その範囲がとても広いため『目的』をしっかりと定め、経
営トップを含めて、全社的 あるいは 企業グループ全体でコンセンサスを得て
推進しなければ、前述のプロジェクト以上に混乱する可能性があると思っている。
 では、DXプロジェクトでは、その『目的』をどのようにして決めるのか?
 昨今の新聞・雑誌に掲載されているDXを積極的に推進している企業の取り組
み内容を見ると、格好の良い文字がいっぱい並んでいる。「これらの企業に負け
ないように、我が社でも格好の良い取り組みを始めたい」と気負う必要は全く
ない。
 国を挙げて『DX推進』という大きな活動が進んでいるが、官公庁や地方自治
体のシステムのお粗末さを代表とするように、一般の企業においてもシステム環
境や情報の活用度は千差万別である。そんな中で、先進的な活動をすでに行って
いる企業の模倣をしても、仕方がないだろう。
 例えば、
 ・既に多くの企業が実施しているが、自社では実現できていない効率化施策
 ・新規に取得できると、販売戦略が立案しやすくなると思われる情報の収集
 ・製造工程で発生しているであろう無駄を可視化し、改善するための情報収集
 ・グループ会社との共同研究に関する情報のリアルタイム共有環境の整備
 ・請求書の発送・受領業務の事務効率化と会計データの自動作成
 ・旅費、経費精算システムの導入
 ・最新テクノロジーをタイムリーに享受できるERPシステムの導入
など、自社の現状を確認してみると、活動テーマはいろいろと見つかるはずだ。
 図らずも、本日(2021年12月6日)の日経新聞朝刊の第1面の記事にも
なっていた『電子帳簿保存法義務化』。本来は、企業規模の大小に関わらず、
2022年1月より全面的に義務化される予定だったが、多くの企業が制度の詳
細を認識しておらず、準備が遅れているために、電子取引に伴う取引情報の電子
保存の環境整備については2年間の猶予が与えられる模様である。検討が進んで
いない企業にとっては、早速取り組むべきテーマではないだろうか。
 このようにして見出した活動テーマが、他社の活動に対して見劣りするもので
あったとしても気にすることはない。それよりも、実力(=現状)から二段階も
三段階も背伸びした取り組みをする方が、それこそ失敗するに決まっているプロ
ジェクトを始めることになりはしないだろうか?

整理してみよう。自分の会社に足りないものは?

 私の過去のプロジェクト経験をひとつ紹介しよう。
 ある会社の業務効率化を目的としたシステム更改プロジェクトでの業務要件定義
で、『過去実績データの蓄積』や『過去実績データを活用した経営分析』といった
業務ニーズを聞くことがなかった。
 過去実績データとは、会計データ・非会計データに関わらず、日々の事業遂行に
関する”事実”である。この”事実”は様々なことを教えてくれる。
 例えば『時系列分析』。
 同じ事業を継続的に行っている状況下では、事業活動に伴って生成されるデータ
は、概ね同じ傾向を示す。よって、この実績データを時系列に並べて変動状況を確
認することで”異常”を発見することができる。ただし、すべての変動が”異常”を示
しているとは限らない。意識しているか、無意識なのかは別として、何らかの施策
の実行(≒出来事)が変動を引き起こしている可能性がある。その施策(≒出来
事)自体が”異常”ならば”異常”だし、”正常”ならば”正常”なのである。
 変動が生じた時期にどのような施策を行ったか(≒出来事が発生したか)は、当
事者である実績データを生成させた活動を行った部署が一番よく知っているはずな
ので、それを調べることで”異常”か、”正常”かを判断することになる。
 この行為をスピーディーに行おうとしたら、これの時系列分析の結果をまずそれ
ぞれの担当部署に提供し、”異常””正常”の判断をしてもらう。この判定フィルター
を通した後に、管理部署や経営者に報告するようなプロセスを組むことによって、
報告した時には既に改善アクションが始まっている(=改善アクションは担当部署
の責任だから)という管理プロセスが出来上がる。
 また、過去実績データは予算編成時の戦略検討にための基礎情報としても活用で
きる。特段の販売施策を実施していなければ、ある製品の販売実績は概ね一定の水
準を示す。
 予算編成において、翌年の販売数量を増やそうと思ったら、戦略的な販売施策を
計画しなければならない。その販売施策を実行することによって期待する販売増加
数・金額はいくらか? その販売施策を行うにはどのくらいの費用がかかるか?
その結果どのくらいの増加利益が見込めるか? これを具体化するのが予算編成の
手続きだろう(=目標額をまとめるのが予算編成ではない)。
 何れにしても、過去実績データは、何人であってもNoと言えない情報である。
この宝のような情報を活用しない手はないだろう。

できるだけ自分たちの力だけで実現しよう

 さてさて、前項までの内容でDX推進プロジェクトの目的や活動テーマを明らか
にする方法を、おぼろげながらにもご理解いただけたかと思うが、それでも「自分
たちの力だけでプロジェクトを成功させる自信がない」と言われる方もあるだろう。
 そうすると外部の力を借りるしかない。一般的には、コンサルティングファーム
やITベンダーにプロジェクト支援を発注することになるだろう。自分たちだけで
はできないのだから、これは仕方がないことだと思われるかもしれませんが、この
選択こそ失敗プロジェクトを作ってしまう原因のひとつなのです。
 経営コンサルタントという職業の私が、何故このようなことを言うのか不思議で
しょう。
 もう少し詳しく話をすると、外部の力を借りることによってプロジェクトそのも
のは当初の目的(=業務効率化 や 新システムの導入)は達成するのかもしれま
せん。本来は、新しく出来上がった業務プロセスやシステムを自分たちの力だけで
今後維持管理できるだけの知識をプロジェクト期間中に身に着けることができて初
めて「プロジェクトが成功した」というのではないでしょうか?
 『自分たちの力だけではできないから、外部の力を借りよう』と思った瞬間に、
皆さん方の意識は『すべてを任せられるコンサルタントやベンダーを見つけなけれ
ば』という方向に向かっていませんか? 所謂、”丸投げ”できる相手を探そう と
している訳ですね。
 会社の金を使ってプロジェクトをやろうとしたら、課題認識→事実確認→根本原
因の特定→改善施策検討→実現性確認→業務変更・システム改修要件の特定→参加
部署とプロジェクトメンバーのレベル決定→プロジェクト期間・費用の見積もりと
いう作業は自分たちの力だけで検討しなければなりません。ここまでの議論ができ
ていなければ、そもそもDXプロジェクトを開始するための社内コンセンサスを得
ることが難しいでしょう。でも、ここまで議論できていたら、外部の力を借りる必
要はないのでは?
 もし、どうしても自信がないと言われるなら、プロジェクトのファシリテーショ
ン(≒プロジェクトマネジメント)を手助けしてもらうことだけを外部に求めまし
ょう。
 ”丸投げ”する場合は、『お金をかけて、外部の力を借りて、自分たちが新業務プ
ロセスや新システムの運用・維持管理に関する知識を習得する』ということが目的
であることを決して忘れないようにし、プロジェクト期間中もその意識を絶対に崩
さないことが重要です。
 新しく出来上がったものは、その後の組織改編や業態の変化、経年劣化などによ
って必ず改修しなければならなくなります。その時、自分たちで対処できるように
していなければ、また高いお金を払って外部の人に頼らざるを得ず、これを繰り返
していると、常に世の中のスピードから一歩も二歩も遅れた動きしか取れない会社
になってしまいます。

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