社長から俺が指示しないと動かないのか!と言われました

公開:2021/6/27

戦略を活動レベルにまで落とし込めているか?

 『実効性の高い経営管理』にとって、最も重要なことは何か?
 それは、経営者が立案した各種戦略を現場レベルの活動にまで落とし込み、その
活動の具体的な目標を設定する事だと考える。この作業を一般的に『予算編成』と
言う。
 経営管理の目的は予算の達成状況を管理することなので、当然と言えば当然の事
だが、経営管理の質の向上、手法の改善、さらには明確になった課題に対する迅速
な改善施策などの実効性は予算編成のやり方で大きく変わる。その意味で、経営者
が目指す経営や業績の達成度は、予算の策定方法によって決まると言っても過言で
なはいと思っている。
 では、戦略を現場レベルの活動にまで落とすとは、具体的にどのような作業なの
か? その一例を解説しよう。
 経営者が『有利子負債の半減』という経営目標を掲げたとしよう。これを実現す
るためには、誰が何をすればよいだろうか?
 この目標の実現方法(=現場の活動)が予算きちんと反映されていなければ、目
標は『絵に描いた餅』で終わってしまう。当然ですね。
 『有利子負債(=借金)』を減らすにはどうするか? 以下に示す通り、様々な
手段が考えられるだろう。しかし、これらの手段のすべてを事業遂行活動に落とし
込めるとは限らない。『有利子負債(=借金)』を減らすための効果的な手段の中
には、他の目標の達成を阻害する要因になってしまうものもあるかもしれない。
そうしたことを考えながら、実行可能な手段を明確にして、目標額を決定する事が
『予算編成』だ。
 さて、皆さんの会社の『予算編成』では、経営方針を達成するための手段と目標
を具体化できているだろうか? 数字を作ることだけで終わっていませんか?
《参考 : 有利子負債削減のための主要な手段(例)》
 収入の改善
  ・粗利改善 ⇒ 販売価格アップ(新製品発表やモデルチェンジ時に対応)
        ⇒ 原価低減(設計変更、部品の共通化、ロスミニマム化等)
  ・債権の確実な回収 ⇒ 連結ベースの与信管理実施
            ⇒ グループ会社間での債権回収遅延情報共有
            ⇒ 入金条件変更【既存得意先との条件変更は困難】
 支出の削減
  ・経費削減 ⇒ 共通業務集約、ロスミニマム化、外注作業の内内製化
        ⇒ 支払条件変更【既存取引先との条件変更は困難】
        ⇒ 消耗品等購入時期の適正化
        ⇒ 消耗品等購入量の適正化
  ・設備投資 ⇒ 購入価格低減折衝の実施
        ⇒ 支払条件変更【既存取引先との条件変更は困難】
        ⇒ 設備納入時期の適正化
        ⇒ 設備能力の適正性再確認
  ・資材調達 ⇒ 購入価格低減折衝の実施、グループ集約購入の実施
        ⇒ 仕損削減(=製造品質改善)
        ⇒ 支払条件変更【既存取引先との条件変更は困難】
        ⇒ 調達リードタイムの短縮を前提とした購入先の見直し
        ⇒ 資材購入時期の適正化
        ⇒ 資材購入量の適正化、安全在庫水準の見直し
 支出と収入のタイミング差異縮小
  ・調達リードタイムの短縮
  ・製造リードタイムの短縮
  ・資材、製造品保有日数削減
  ・資材、製造品保管場所削減
  ・運送効率改善     等

事業の特性に合った管理指標を設定できているか?

 皆さんの会社では、事業遂行形態に合った管理指標を設定できているだろうか?
 同じ製品を販売する会社でも、社内製造比率が高い会社と、製品開発に特化し、
製造作業を外部委託している会社では、管理指標が異なっていて当然だ。
 にもかかわらず、経営分析の教科書に記載された財務分析指標をそのまま自社の
管理指標として使用している会社が多いことに驚く。4月に投稿したコラムでも述
べた通り、スピード感に欠けるとともに、目標達成・未達の理由を推定することす
らできない財務分析指標を利用した経営管理で満足しているのが不思議でならない。
 さらに、前項で述べた通り財務分析指標では、経営者の方針を現場の活動に落と
し込むことができないので、その点でも管理指標の選択を間違っていると指摘した
い。
 では、どのような管理指標を設定すればよいのか?
 前述の ➀社内製造比率が高い会社 と ➁製品開発に特化した会社を例題とし
て、筆者が考える指標を以下に示す。《⇒ 各指標の利用目的》
 販売分析
  ・販売チャネル別製品別販売数量&限界利益(➀➁共通)
    ⇒ 販売チャネル別販売価格分析<値引きや特価対応費用の管理>
    ⇒ 販売チャネル別販売変動費分析<チャネル維持費用や手数料の管理>
    ⇒ 製品販売台数実績<チャネル別製品供給予定数管理>
    ⇒ 製品が稼ぎ出す限界利益実績<設計原価低減活動実施優先度管理>
  ・販売チャネル別製品別販売数&限界利益(➀のみ)
    ⇒ 製品が稼ぎ出す限界利益実績<調達価格低減折衝対象資材の選別>
 製造関連費用(ライン組織費用)分析
  ・機能別発生費用(➀のみ)
    ⇒ 開発・製造・品質管理・調達・生産管理などの機能別経費実績管理
  ・目的別発生費用(➀➁共通)
    ⇒ 棚卸資産・製造設備などの管理費、評価損計上額、廃棄損実績管理
 スタッフ関連費用分析
  ・機能(=組織)別発生費用(➀➁共通)
    ⇒ 事業組織に配賦されるスタッフ部門費用の実績管理
 リードタイム分析
  ・調達額の多い資材のリードタイム実績、分析(➀のみ)
  ・調達額の多い製品のリードタイム実績、分析(➁のみ)
  ・工程別製造リードタイム実績、分析(➀のみ)
  ・資材、半製品の保有日数実績、分析(➀のみ)
  ・完成品の保有日数実績、分析(➀➁共通)
  ・完成品配送リードタイム実績、分析(➀➁共通)
    ⇒ 棚卸資産削減、キャッシュフロー改善のためのリードタイム管理
 棚卸資産保有量分析
  ・連結場所別資材・半製品残実績(品名・数量・金額)(➀のみ)
  ・連結場所別製品残実績(品名・数量・金額)(➀➁共通)
  ・死蔵資材・半製品在庫、過剰資材・半製品在庫の有無確認(➀のみ)
  ・死蔵製品在庫、過剰製品在庫の有無確認(➀➁共通)
    ⇒ 何れも、棚卸資産削減・キャッシュフロー改善
    ⇒ 何れも、評価損計上対象資産の把握、調達量コントロール 

組織間のコミュニケーションは良好か?

 『事業活動は、グループ会社を含めたすべての組織が協業することで成立する』
は、改めて言うことではないと思うが、これが実践できてない企業に出会うことが
多い。
 業務改革支援で訪れた企業で、様々な部門の代表者から事業遂行状況のお話しを
伺うだけで、組織間コミュニケーションの課題を判断することができる。それは、
例えば以下に示すような特徴があるからだ。
 ・所属する組織で行っている業務に関連する、法令や社内制度に関する理解度が
  低い
 ・所属する組織の前工程と後工程の内容を知らない、知ろうともしてない
 ・他の組織に対する悪口が多い
 ・他の組織が行っている業務の内容を知らない、知ろうともしてない
 ・所属する組織で発生している課題の原因が他の組織にあると言いつつ、その組
  織に対する行動を何も行ってない

 このような状態で、事業活動がうまくいくはずがない。
 中でも一番厄介なのは、販売する製品に非常に魅力があるため、前述のような状
態が続いているにかかわらず、見かけ上課題が全く明らかになってなく、事業活動
がうまくいっているように見えている企業である。役員・従業員とも課題を認識で
きていないため、ひとつひとつ課題を拾い上げ、コンサルタントとしての知見を折
り混ぜて、課題を認識していただくところから始めねばならない。そのため、最終
的に改善活動が終了するまでに相当な時間と労力が必要となる。
 そもそも役員・従業員とも自社の課題を認識できてないのだから、改善活動を行
う必要がないとも思うだが、コンサルタントとしては、企業の将来のことを考え
て、どうしても課題をすべて明らかにして、潰してしまいたいという衝動に駆られ
る。
 このような企業は、自分たちだけで課題を発見・解決する力が弱いので、突発的
に発生する事象に対してスピーディーな対処ができないとともに、将来にわたる成
長戦略を実現するためのプロセス改訂や、新しい仕組み作りができないことが多い
からだ(人の会社なので、そのままでも良いのだが、、、、)
 そもそも事業活動は、他の部門の人と会話し、折衝しながら進めるものなのに、
なぜこのような状態になってしまうのだろうか?
 その要因は様々だが、次のようなことが考えられる。
  ・役員同士の仲が悪い(派閥の存在)
  ・従業員教育体系が貧弱。または、スキルアップ活動が個人任せ。
  ・業務マニュアルが整備・更新されてなく、知識だけで仕事をしている
  ・担当替えがなければ、若手に仕事を渡そうとしない
  ・人事が硬直化しており、同じ仕事を長くやり続けている人が多い
  ・リストラの影響で、人に仕事を教えられる知識を持った人がいなくなった

 組織間のコミュニケーション不足が事業活動に与える影響が大きいことは、誰も
が理解できることなので、課題の発生を感知したら、できるだけ早いタイミングで
根本原因を特定し改善したいものである。

大切なのは人を育てること

 円滑な事業活動を実現し、かつ実効性の高い経営管理を実現するために最も重要
な施策は『人財の育成』だと考える。
 事業の特性に合った管理指標を設定し、経営者の戦略を具体化する手段と目標を
設定し、関係するすべての事業遂行機能(=部門)が円滑なコミュニケーションを
取りながら目標達成に向けて努力する。これらすべての行動は、有能な人財があっ
て実現できるものと思う。
 また、この事業遂行プロセスは、次世代の人にも実行してもらう必要があるた
め、自分たちが持つノウハウをマニュアル化するとともに、後継者の育成にも力を
注ぐ必要がある。
 さらには、突発的に発生する事象への対処や、新しい事業・新しい事業遂行プロ
セスの設計・定着化などの対応も同時に行う必要があるため、複数の機能組織の代
表が専門知識を持ちより。戦略を練る活動を絶えることなく継続する必要がある。
 人は、自分の知っていること以上のことを他人に教えることはできない。だか
ら、ひとを指導する立場にある人は、新しい知識を得るための努力を怠ってはいけ
ない。
その努力が面倒くさいと言って、自分の持っている知識を若手に渡さない行為はも
っての他だ。自分の立場を温存するためにやっていることかもしれないが、この行
為は組織や会社を弱体化させるだけである。
 よって、前述の事業遂行プロセスが円滑に回っている企業は、おそらく怖いもの
なしの優良企業に成長していくことだろう。
 活力のある機能(=組織)は、何事にも耐えうる力を発揮することが間違いな
く、この活力の根源はその機能(=組織)に所属する従業員一人一人の知恵と行動
力にあることは間違いないと確信している。

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