社長から経営状況が視えないと言われました

公開:2021/4/22

今、起きていることを一番知らないのは経営者

 会社が事業活動を遂行している時、良い事にしろ、悪い事にしろ、今起きている
事を知ろうとしたら、この活動状況を何らの情報に置き換える必要がある。この情
報は、『事実』または『実績』と呼ばれる。しかし、単に『事実』や『実績』を並
べただけでは、それが良い事なのか、悪い事なのかを判別できないことが多い。そ
のために、『事実』や『実績』に『ものさし』を当ててやり、これを基準にして良
い事か、悪い事かを判別する作業を行う。この作業を『経営管理』または『事業遂
行管理』という。

 では、事業活動を『事実』や『実績』といった情報に置き換えできてない ある
いは置き換えができてはいるが、その作業が月次サイクルであるという状況がある
場合、一番困るのは誰だろうか? それは、経営者である。
 何故なら経営者は、事業活動の大きな方針を立案したり、これを具体的な活動に
置き換えたり、必要に応じて方針の一部を変更したりすることはあるが、事業活動
そのものを直接的に実行 あるいは コントロールしている訳ではないからだ。

 反面、事業活動を直接的に実行する立場にある、会社の組織上底辺にいる作業者
や、その作業者を管理・監督する立場にある人達は、『事実』や『実績』という情
報への置き換えを行わなくても、活動の結果が良い事か、悪い事か判別することが
できる。このように考えると、会社の中で 今、起きていることを一番知らないの
は経営者だということが解る。

 悪いことが起きたら、経営者に相談することなく、底辺にいる作業者や管理者が
自分たちの判断で対処してよいという権限を与えられているとしたら、さらに事業
活動の結果に対する評価も作業者や管理者が自分たちで決めて良いという裁量権が
与えられているならば、『事実』や『実績』を経営者に報告する必要はないだろう。
 しかし、このような会社は存在しない。というよりも、このように組織構造と責
任分担が崩壊した状況を会社とは呼ばない。

 であれば、悪いことが発生した場合にできるだけ早く改善施策を実行するための
指示を仰いだり、悪いことが起きる前に異常を発見したり、事前に予防するために
経営者に判断を求めねばならない。そのためには、自分たちが行っている事業活動
に関する『事実』や『実績』をタイムリ―に経営者に報告しなければならないこと
は、誰にでも容易に理解できる事である。
 でも、この作業ができてなく、どうしたらよいのか悩んでいる企業が多いのは何
故だろうか?

経営課題は、『経営管理・経営分析』でしか発見できないものか?

 『経営管理・経営分析』という言葉が、非常に高度な管理資料の活用や管理指標
の設定をイメージさせるので、「自分の会社の経営管理はレベルが低い」と思って
いらっしゃる方も多いのではないだろうか? しかし、『経営管理・経営分析』の
目的は『異常を早期に発見し、改善活動を早期に実行できるよう根本的な原因究明
を迅速に行うこと』であるから、管理手法にこだわる必要はないのではないでしょ
うか。
 管理を行う上で大切なことは、➀自分たちが行う活動で、改善することができる
事象を管理すること ➁改善活動を行う担当者や管理者が良否を判断でき、改善の
ためには何をすればよいかを推測できるような情報を取集すること だと考える。
発生した事象に対して、最終的には経営者の判断と指示に基づいて改善活動を開始
するとしても、一番先に現場が異常に気付く管理が最も機動的な管理だと言える。
 この考え方に立てば、損益計算書や貸借対照表を使った財務分析でスピード感の
ある事業遂行管理を行おうという発想は生まれないだろう。失礼な言い方になって
恐縮だが、事業活動を遂行する作業者や管理者の全員が、損益計算書や貸借対照表
から事業遂行課題を発見することができると思えないし、財務会計に詳しい方でも
財務諸表から改善活動の具体的な施策を特定することができると思えない。
 ましてや、損益計算書や貸借対照表に表示されている数値を使った財務諸表など
は、同業他社との比較で『勝った・負けた』という話をする程度の役にしか立たな
いものだと考えている。
 自社の『経営管理・経営分析』に課題感をお持ちの方が、もし財務指標の有効な
活用方法と定着化を実現しようと考えておられるなら、直ぐにでもその考え方を捨
ててくださいと申し上げたい。何故ならば『経営管理・経営分析』に対してこのよ
うなイメージを持ち続けると、あなたの会社の経営管理が月次のサイクルよりも短
くなる可能性がゼロになるからだ。
 いくらライフサイクルの長い製品を開発・製造していると言っても、事業遂行上
の課題はできるだけ早く発見・解決したいでしょう。

管理指標が多い会社は、管理している気分になっているだけ!

 これまで多くの会社を訪問し、その会社の『経営管理』に関する悩みや改善施策
の討議をさせていただいたが、その中のいくつかの会社でKPIと称して数十種類の
管理指標を設定していた。私はもちろんすぐに問いかけた。「これだけの指標を何
に使っていますか?」 何故このような質問をしたかというと、それまでの会話で
「この指標は管理部門が月次決算値を基に算出して、それぞれの指標の責任部門を
統括する役員に送付している」と聞いていたからだ。

「役員に、担当する各部門の活動状況を報告するためです」
「毎月、役員から何らかのコメントが各部門の管理者に出るのですか?」
「私は指標を作成して報告しているだけなので、その後どのように活用されている
 かは知りません」
「この報告書には、各指標の実績値は記載されていますが、目標値がありません。
 目標値は、報告を受けた役員が個別に持っていらっしゃるのですね?」
「各指標の目標値があるかどうかは知りません。私の部門では作成してません」
以上は、この指標が全く何の役にも立っていないと確信した時の会話です。
 報告を受けた役員が、各部門の責任者に「おい、この指標は前月から見ると悪化
しているが、どうしてだ?」と問いかける可能性があることを全く想定してないの
か? 各部門の責任者は、何を基準に自分たちの活動を評価されているのかを知ら
されてないのか? 等々、様々な疑問が頭の中を駆け巡る。
 仮に、目標となる指標があり、実績も役員だけでなく各部門の責任者にも報告さ
れているとしても、その指標が中期経営計画・年度予算・部門目標などを達成する
ための基準となっていなければ、私は管理しても何の意味もないと考える。
 特に管理指標は、その指標を構成する複数の管理項目が、すべてひとつの部門で
行っている事業活動に直結したものであれば問題ないが、多くの指標は複数の部門
の事業活動に関連していることが多いので、最悪の場合、他部門の活動が悪化した
ために管理指標が悪化し、その責任を負わされることになった と成りかねない。
 この話が自分の会社を指しているように感じたら、今使っている様々な管理指標
の役割を再確認してみてはいかがだろう。

重要なのは、管理手法・管理ルールが長期にわたり維持・継続されていること

 「事業は生き物であり、常に変化している」
 このように言われることが多いが、そのような事業を相手に管理手法や管理ルー
ルが長年にわたり維持・継続されている事例を見ることがある。そのような管理手
法や管理ルールは、その会社の事業特性にマッチした効果的なものなのだろう。
 それよりも感心するのは、この管理手法や管理ルールの運用に関わっている方々
全員が、管理の目的、目標や実績の把握方法、現場の事業活動との関連性などにつ
いてしっかりと理解されているのだろうという点である。何故そう思うか?
 事業は生き物であり、常に変化しているため、同じ管理手法を継続していると言
っても、振り返ってみると組織改編や事業遂行プロセスの変化、取引先や得意先の
変更、製品の供給市場や部品の調達市場の変化など、様々な事業環境の変動が発生
しているはずだ。
 その状況下で、過去の実績と現在の実績を比較して、その結果を明日の事業遂行
方針に反映できているとしたら、過去実績の組み替えや基礎データの取得方法など
を定期的に見直し、いつでも現在の実績と比較できる状態にしておくという努力が
行われてきたのだろうと、容易に推定できる。
 経営管理の方法は、新しいか、古いかではなく、自分たちの会社を診断する方法
として有効か、有効でないかを意識して設計すべきと考える、繰り返しになるが、
現場の改善活動に結びつかない経営管理はやるだけ無駄なので、直ぐにやめた方が
よい。「報告先に確認してからでないと止められない」と思うかもしれませんが、
何も言わずに止めても誰も困らないと思いますよ。

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